先日、弁理士会の研修にしました。講師は化学系の弁護士の先生でした。係争に関する内容でしたが、出願時に利用可能な点がいくつかありましたので、備忘録として記載しておきます。
弁理士は生涯勉強を継続しなければなりませんね。
平均粒子径の算定方法が記載されていないために無効になった判例と、算定方法が一義的に定まるとして有効になった判例があります。
→平均粒径の算定方法を明細書に記載しておいた方が無難です。
見かけ比重の測定方法が不明確である場合、①JIS K 6721、②パウダーテスター法のいずれの測定方法においてもクレームの数値範囲を充足しない場合、被告製品は非侵害になった判例があります。
→見かけ比重の測定方法を明細書に記載しておいた方が無難です。この他に、融点の測定方法も記載すべきです。
出願後のデータ補充について、進歩性に関しては補充が認められた例と認められなった例の両方があります。記載要件に関しては、補充が認められないとの理解が有力のようです。
→進歩性で補充が認められた判例は、例えばこれです。知高平21年(行ケ)第10238号には、「進歩性の判断において,「発明の効果」を出願の後に補充した実験結果等を考慮することが許されないのは,上記の特許制度の趣旨,出願人と第三者との公平等の要請に基づくものであるから,当初明細書に,「発明の効果」に関し,何らの記載がない場合はさておき,当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には,記載の範囲を超えない限り,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり,許されるか否かは,前記公平の観点に立って判断すべきである。」と判断されています。
実施例については、出願前の打ち合わせの際、いつもご発明者様に気を使います。発明の効果をきちんと立証するため、弁理士としましては理想的な実施例および比較例を要求したいところです。一方、ご発明者様としましては費用と手間を最低限に抑えたいかと思います。特に、比較例のために手間が増えるのはご発明者様にとって酷です。私も発明者の時にそのように思ったことがあります。このため、争点に関する実施例を後から補充することができれば、効率が上がります。そういう意味で、この判例は重要です。判例の射程範囲を確認しておく必要がありますね。
数値範囲が記載された発明では、有効数字を考慮しない判例(大地平14年(ワ)10511号)があります。ここでは、「実施例において、0.5ミクロンの誤差があるのであれば、その誤差の範囲まで、すなわち、「3.5ミクロン未満」を上限として特許請求の範囲に記載すればよいのである。ところが、これをせずにおいて、特許請求の範囲に上限を「3ミクロン」と記載しておきながら、「3.5ミクロン未満」が技術的範囲であるとすることは、特許請求の範囲の記載の明確性を損なうものである。これと同様、40g/㎡のタンタルを用いるとの趣旨でクレームしておきながら、誤差を理由に45g/㎡未満としなければならない合理的理由も見いだせないところである。」と認定されています。
→自分で調べた中では、有効数字を考慮する判例(東地H12年(ワ)第19360号)もあります。この判例では、「被告物件では、収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比は、0.66及び2.02322であり、本件発明の構成要件E(1.1≦P/D≦2.0)を充足しない(なお、2.02322は、有効数字で算定した場合に、2.0をほぼ充足すると解することもできなくないが、0.66が明らかに充足していない以上、上記結論を左右するものではない。)。」と認定されています。
→2.0は、有効数字を考慮しますと「1.95~2.04」になります。よって、「2.02322」が範囲に含まれることをある程度許容しているようです。ただ、これは判決に直接影響するものではなく、「0.66」が明らかに範囲外であるため、前述の認定のようになったものと思われます。そうしますと、有効数字に関しては、前述の大地平14年(ワ)10511号にありますように、有効数字を考慮すべき「合理的理由」を、測定誤差や製造時に発生し得る誤差などを考慮して主張するか、もしくは均等論を用いて主張することになるかと思います。
出願時には、測定精度を考慮して有効数字を意識した方がよさそうです。例えば、2.00が実施例で1.95が比較例の場合、臨界値を下二桁まで規定した方が無難かと思います。
数値範囲が接近している場合には、技術思想の違いをきちんと主張しなければなりませんよね。
先使用権において、公正証書は証拠能力及び証明力の両者が高いそうです。技術提案書、企画書、設計図、製品仕様書、事業計画書、製造記録、検査記録、出荷記録などを公正証書として保存しておきます。
→これは念のために利用しておいた方が無難です。